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40歳受精卵の8割に異常 出生前診断の精度は?

生活・家事

40歳受精卵の8割に異常 出生前診断の精度は?

(上)「新型出生前診断」の受診者が3万人を突破 胎児の染色体異常が分かる出生前診断の検査法は多種多様

 2016年7月、妊婦の血液から胎児のダウン症などを調べる「新型出生前診断(NIPT)」を受けた人が開始3年間で3万人を超え、受診者が年々増加している実態が明らかになりました。染色体異常が確定した人の9割が、人工妊娠中絶を決断していることも報じられています。

 日本をはじめとした多くの先進国で晩産化が進むとともに、劇的に産科医療が進化し続ける現代。「命」という何よりも重いテーマの下、長きにわたり安易には語れない賛否両論の議論を巻き起こし、多くの医療者や当事者の苦悩や葛藤を生み出してきた「出生前診断」について、2回にわたってお届けします。“命の選別”というセンセーショナルな話題として取り沙汰される中、中立的立場からの情報に乏しく、その真実や全容が分かりにくい出生前診断。公的機関や医療機関からのサポートも十分に進んでいない現状から、胎児に何らかの異常があると分かったとき、夫婦だけで抱え込み、揺れる気持ちを抱えたままに重大な決断を余儀なくされるケースも少なくありません。

 第1回では、出生前診断と着床前診断の研究に長年尽力し、11年がかりで日本で初めて着床前診断の倫理承認を得て実施した慶應義塾大学医学部産婦人科学教室准教授の末岡浩医師、そして、『出生前診断~出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新書)の著者で、様々な医療関係者の賛否両論や出生前診断に揺れる数多くの女性達の生の声を真摯に取材してきた、日本で唯一の出産ジャーナリスト・河合蘭さんに取材。長きにわたりタブー視されてきた大切な問題に、真正面から取り組む2人の専門家から話を聞きました。

出生前診断の本来の目的は「生まれた後の環境整備」だった。医療現場と当事者の葛藤

 「出生前診断」とは妊娠中の胎児に医学的な問題がないかを調べる任意の検査のこと。

 慶應義塾大学医学部准教授の末岡浩医師は、「出生前診断では遺伝学的な情報に限らず、胎児の個体としての発達・発育など調べます。例えば妊娠中の定期健診で基本的に誰もが受ける『通常の超音波検査』も広い意味で言えば出生前診断の一つ。しかし、現在、一般的に出生前診断というと、妊娠中の胎児の染色体や遺伝子に異常がないかを調べる『出生前遺伝学的検査』のことを指す場合がほとんどです」と解説します。

 「大前提として伝えたいのは、出生前診断と聞くと、“赤ちゃんに異常が発見されたら妊娠をあきらめる”という命の選別と捉えられがちですが、本来の目的は、赤ちゃんを望む人達に向けて、“生まれた後の赤ちゃんの成育環境を整える準備をすること”。おなかの中にいる段階で胎児の病気を見つけることができれば、新生児医療を行える分娩施設への転院を検討したり、出産後すぐに治療開始できるように準備したりすることもできます」と末岡医師。

 将来につながる希望を見いだすための技術でありながら、実際には高齢出産等の不安から出生前診断を受け、「異常が見つかったら産まない」ことを選択せざるを得ない人もいるという難しい問題をはらんでいるのも事実。そこには“確率”や“割合”という数値だけでは推し量れない、当事者や家族、医療者といった関係者の様々な葛藤と決断の歴史があります。

 「後ほど(第2回記事)詳しく説明しますが、日本で現在、中絶について定められている『母体保護法』には、複雑な歴史的、法的な経緯もあって、法の規定が曖昧な部分があることは事実です。病気をもつお子さんを、少しでも症状が良くなるよう命をつないでいこうとするのが小児科医の立場。おなかに宿った命を最初から淘汰しようという考え方は当然ありません。一方、産婦人科医も小児科医と立場こそ異なりますが、正直を言えば、命を失わせる人為的操作に誰しも手を染めたくないのが本音。しかし、遺伝的な要因であったり、経済的な事情、現実的に育てる難しさなど、やむにやまれぬ個々の事情がある中、現状定められたルールの下、腹をくくって当事者の希望に添うことを行っているのです。それでも社会からは、中絶は産婦人科医の仕事だろうと思われ、なかなかその覚悟や苦悩・葛藤への理解は得られない……。伝統的な村社会的秩序であったり、毎日を生き抜くために必死であった日本の過去に遡ると、たやすくすべてを肯定・否定することはできませんが、生命に対する尊厳は常に心に留めておかなければなりません」 (末岡医師)

 日本で唯一の出産ジャーナリスト・河合蘭さんは、国内外50人以上の医療者・検査について葛藤した女性達への取材や、35歳以上の出産(高齢出産)を経験したことがある母親へのアンケート調査(2012年11月、河合さんとベビカムとの共同実施。有効回答数82人)を行い、『出生前診断』(朝日新書)を上梓。

 「現状、染色体疾患や重篤な形態異常が発見された場合、妊娠の中断につながるケースも少なくありませんが、その一方で、『出産までに心の準備をしておきたいから検査をする』という人や、『陽性と診断されても中絶は考えられないから、初めから検査は受けない』と考える人もいました。検査を受けることや結果の受け止め方についての考え方は人それぞれ。十人いれば十通りの答えがあります。専門家であっても、経験や学識により出生前診断への考え方は様々です」とその判断の難しさを語ります。

 執筆依頼を受けてから、この難しいテーマを一冊の本に書けるかどうか約3カ月間迷ったという河合さん。当初、起きていることをとにかく自分の目で見ようと、学会を巡り歩いたり現場を訪ねたりする予備取材を重ねたそうです。そして、その中で、「この診断の本来の目的は治療であり、ここには未来の光がある」と思えるようになり、その途上でたくさんの人が最善の形を求めて努力している姿が見えてきたとき、初めて「書ける」という自信が湧いてきたと当時を振り返ります。

意思決定に欠かせない“正しい”情報から、知識を深める大切さ

 「議論されるべき問題や課題は山積みですが、技術は刻々と進んでしまいますから、次々と登場する新検査について産む人が自分の考えをまとめるためのサポートは不可欠」と言う河合さん。

 「出生前診断を受けるかどうかは、自分自身がよく考えて決めること。医師に勧められるものでも、親から勧められるものでもありません。十分な説明や情報もないままに検査を受けた結果、『陽性』という結果を受け止めきれず、不安や振れ幅の大きな思いを抱えたまま妊娠期間を過ごしたという人も少なからずいます。知らない苦悩、知ってしまった苦悩どちらもあります。だからこそ、これから妊娠を考える人は、出生前診断についての正しい知識を妊娠する前から身に付けておくことが大切です」と河合さんはメッセージを送ります。

 「現在の医療技術でできる胎児治療はまだ限られていますが、母体の安全を確保しつつ、生まれる前の胎児に治療を行い、生後治療よりも効果の高い治療を行う取り組みも世界中で試みられています」と、最先端医療を語る末岡医師。

 「新しい技術の進歩とともに、より速く、より確実に、出生前診断を取り巻く環境は日々変わりつつあります。だからといって、気軽に検査を受けましょうということではありません。これからは、多くの人が広く情報を知り、知識が深まる時代。出生前診断のメリット、デメリット、そして実際に赤ちゃんに異常が発見された場合のその後について、基本的な知識を知っているか、知らないか。自分にどれだけの情報があり、それに対する不安感の大きさによっても受け止め方は異なります。命に関わるその重さをよく理解したうえで、検査を受けるかどうか決めてほしい」と、末岡医師は力を込めます。

 次のページからは、「20代でさえ約5割の受精卵に存在する」といわれる「染色体異常」と出生前診断の検査方法について、詳しく見ていきます。

「出生前診断の本来の目的は、生まれた後の赤ちゃんの成育環境を整える準備をすること」と慶應義塾大学准教授の末岡医師
「出生前診断の本来の目的は、生まれた後の赤ちゃんの成育環境を整える準備をすること」と慶應義塾大学准教授の末岡医師

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