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出生前診断 置き去りの法整備と妊婦サポート

生活・家事

出生前診断 置き去りの法整備と妊婦サポート

(下)出生前診断の海外事情比較。受精卵の染色体や遺伝子を妊娠前に調べる「着床前診断」とは

 導入開始から3年間で累計3万人を超え、高齢出産といわれる年齢で出産を経験する人を中心に注目を集めている「新型出生前診断(NIPT)」。NIPT以外にも、出生前診断には様々な検査方法があることを前回の記事でお伝えしました。今回は引き続き、出生前診断と着床前診断の研究に長年尽力し、日本で初めて着床前診断の倫理承認を得て実施した慶應義塾大学医学部産婦人科学教室准教授の末岡浩医師と『出生前診断~出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新書)の著者で、出産ジャーナリストの河合蘭さんから、出生前診断で起きる問題点や議論の多い「着床前診断」について話を聞いていきます。

NIPTで分かるのは3つの染色体の数的異常だけ

 非確定的検査ながら、他の検査に比べて陽性的中率が高いNIPT(新型出生前診断)。「採血」というリスクのない方法で胎児がトリソミーを持つ可能性を高精度に評価することができるため、羊水検査実施率を下げることで羊水検査で起こり得る流産や早産を減らすメリットがあります。

 しかし心に留めておきたいのが、前回末岡医師が指摘した通り、「染色体異常は誰にでも起こり得るものであり、非常に多岐にわたりますが、現状のNIPTの検査で分かるのは13番・18番・21番の3種類のトリソミーだけ」であること。染色体は全部で24種類ある中で、その他の染色体の数的異常や小さな構造異常については分かりません。

 「胎児の先天性疾患全体のうち、心臓の形態異常を伴うものが多いですが、染色体異常を原因とするものは一部です」と末岡医師。先天性疾患全体のうち染色体異常が占めるのは25%にすぎず,羊水検査で染色体が正常であっても先天性疾患全体のうち75%の可能性は依然として残ります。

 河合さんも「検査で異常が見られなかったからといって、健康な赤ちゃんが保証されるわけではありません。NIPTで陰性だった場合でも、その他の先天性疾患を持って生まれてくることは一定の割合で起こっています」と、NIPTの精度への過度な期待に注意を促します。

NIPTで陽性となった場合は15週からできる羊水検査を行わなければ確定診断はできず、羊水検査の結果が出るまでに不安を抱えたままさらに2〜3週間を過ごすことになる
NIPTで陽性となった場合は15週からできる羊水検査を行わなければ確定診断はできず、羊水検査の結果が出るまでに不安を抱えたままさらに2〜3週間を過ごすことになる

精度の高さだけではない、出生前診断の光と影

 今年7月、NIPTの臨床研究を進める任意団体「NIPTコンソーシアム」が開始から3年間の実績を発表。NIPTの受診者は3万人を突破し、NIPTで陽性と判定され、次の確定検査で陽性と診断された人の9割が中絶を選択したことが明らかになりました。

 この数字が示すように、出生前診断の結果の先には「赤ちゃんをあきらめる」という選択肢があるのは事実。出生前診断による中絶助長の可能性や、中絶を選んだ母親への精神的ダメージなどが社会的に懸念されています。

 そういったネガティブな側面から出生前診断の情報は慎重に扱われ、タブー視される傾向にありましたが、当事者や医療者など多くの関係者の声に耳を傾けてきた河合さんは、「出生前診断が持つ光と影。ただ影の部分を出生前診断のすべてと考え、口を閉ざすだけでは何も変わらないのではないでしょうか。ここまで高い技術が登場し、超音波検査に至っては全員が受けている以上、出生前診断については、もう、よりよく語っていくしか道はないのだと思います。実際には、多面的な情報が広まれば検査を安易に考える人は減る可能性がありますし、受けやすい非確定的検査が広がれば、『障がいが分かったら、高度医療が受けられる病院に転院して産もう』と思いながら検査を受ける人の割合も増えていくのではないかと私は考えています。検査の敷居が低くなり受ける人の絶対数が増えるに従って、検査を受ける人の考えも多様化するからです」と、将来を展望します。

 「でも現状を見ると、出生前診断について医師からの情報提供が少ない日本では、不安を募らせた妊婦さんは、インターネットの情報だけが頼りという孤独な状況に陥りがち。そんな中でNIPTの開始に当たり、海外では一般的とされる『遺伝カウンセリング』の義務化が行われたことは画期的でした」と河合さん。

 「出生前診断を受けるか・受けないか、子どもを産むか・産まないかの判断は、最終的に当事者の自由意思に委ねられます。他人に自分と同じ判断を強要する権利は誰にもありません。そうした妊婦さんの個人的な選択を守ることも大事ですし、同時に、社会としては、障がいのある子を出産することを決めた人が生きづらくなったりしないための意識改革を進めていくことが必要です。障がいがあると分かって産む両親をサポートしていく仕組みや、生まれた後の育児や教育の環境を整えることも、検査の進歩と足並みをそろえて進めていくべきです」(河合さん)

【次のページからの内容】
・「中期中絶」にまつわる誤解と、母体への肉体的・精神的負担の大きさ
・イギリスでは出生前診断が無償提供。アメリカでは保険でカバーも
・受精卵の染色体や遺伝子を妊娠前に調べる着床前診断
・臨床研究が決まった「着床前スクリーニング」の“今”

次ページ 「中期中絶」にまつわる誤解と、母体へ...

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