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椰月美智子 『さしすせその女たち』連載小説スタート

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椰月美智子 『さしすせその女たち』連載小説スタート

【第1回】 ワンオペ状態のワーママ・多香実の日々に、「離婚」の文字が浮かびはじめる

デジタルマーケティング会社で室長として働く多香実。5歳と4歳の子どもたちは手がかかる盛りだ。保育園のお迎えのために、部下よりも早く退社する日々。

仕事と子育ての両立は、想像以上に大変だった。
共働き夫婦として夫と協力しながらやってきたつもりだが、ふと気づくと自分ばかりが動いている。

シングルのママ友、学生時代の友達、会社の同僚、昔気質の父と母。
それぞれの家庭を目の当たりにしながら、多香実はいつしか「離婚」に思いをはせるようになってゆく。

今日もまた、多香実のあわただしい日常が過ぎようとしているが……

『さしすせその女たち』 今回の主な登場人物

◆米澤多香実(よねざわ たかみ) 39歳 /デジタルマーケティング会社「サンクルーリ」ソーシャルマーケティング部クライアントオペレーション室 室長
◆米澤秀介(よねざわ しゅうすけ) 40歳/食品メーカー営業職 課長
◆米澤杏莉(よねざわ あんり) 5歳/みゆき保育園年中クラス
◆米澤颯太(よねざわ そうた) 4歳/みゆき保育園年少クラス

◆美帆(みほ) 41歳/去年離婚したシングルマザー。エレクトロニクス関連会社の派遣社員。家庭教師のバイトも掛け持ちしている
◆響子(きょうこ) 5歳/みゆき保育園年中クラス
◆一真(かずま) 3歳/みゆき保育園2歳児クラス

「えっ?」

 テーブルの上に積まれたみかんの皮を見て、多香実(たかみ)は思わず声を出した。

「響ちゃん、おみかんすきなんだってえ」

 多香実の表情からなにかを読み取ったのか、娘の杏莉(あんり)が言う。

「響ちゃん、おみかんいくつ食べたの?」

 多香実がたずねると、響子(きょうこ)はわかんなーい、と答えた。カゴに入れてあったみかんは半分以上なくなっている。ざっと見ただけでも5つの皮が、響子の前に置かれている。

 響子は杏莉と保育園が一緒で、同じ年中組だ。以前は習い事も一緒だった。比較的家も近いので、母親の美帆(みほ)とも仲よくさせてもらっている。今日は保育園の都合で土曜保育がなく、どうしても仕事を休めないという美帆に頼まれて、響子と、響子の弟の一真(かずま)を預かっている。一真は2歳児クラスだ。一真は、年少組の息子の颯太(そうた)と並んで、ディズニーのDVDを観ている。

「ママ、わたしはたべてないよー」

 怒られると思ったのか、杏莉が言い訳のように口を挟む。次のみかんに手を伸ばそうとする響子を見て、多香実はとっさにカゴを手に取った。

「響ちゃん、あんまり食べすぎるとお腹壊しちゃうよ。もうそれぐらいにしたほうがいいからね」

 響子は多香実の顔をじっと見つめて、だってえ、と口をとがらせた。

「響子、くだものだいすきなんだもん。このごろあんまりたべてないんだもん。くだものたかいんだって。ママがいってた。リンゴたべたいのに」

 多香実はひそかにハッとする。

「リンゴ? 確かリンゴあったわ。響ちゃん食べる? 剥こうか?」

「うん! リンゴ食べたい!」

 多香実はみかんのカゴをそっと隠して、冷蔵庫からリンゴを取り出した。このあいだ会社の人からもらったリンゴだったが、剥くのが面倒でそのままになっていた。塩水にくぐらせてテーブルに出すと、響子が勢いよく食べはじめた。杏莉もつられて、一緒に食べはじめる。そのうちに一真がやってきて手を伸ばし、となると颯太も負けじと口に入れる。1つのリンゴはあっという間になくなった。響子が食べたのは4分の1ほどだったが、満足したのか、杏莉とぬいぐるみでおままごとをしはじめた。

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