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働き方改革はなぜ実感が得られないのか

東大の柳川範之教授に学ぶスペシャルゼミ第2回。働き方改革は現場の声を吸い上げることから始まる

努力の方向性を履き違えている

―― みんな頑張っているのに利益があまり出ない。原因は何なのでしょうか?

柳川 原因はいくつかありますが、一つはデフレの問題です。商品の値段を上げて売るのではなく、コストカットして薄利多売する安売り競争になってしまっている。もう一つは、頑張る方向性が間違っていること。利益を出すために努力するのはいいのですが、そうではなくて、例えば社内の部署間の競争のために頑張っていたり、上司のために頑張っていたりしている。つまり、会社の外にいる消費者を見るのではなく、身内のほうを向いて仕事しているのです。

 上司に評価してもらうために一生懸命働いて、それが会社全体の収益アップにつながるのであればいいですが、同僚と競い合って、二人共疲弊してしまって、会社には利益をもたらしていないということもある。例えば、残業競争のように、職場に遅くまで残っているほうが偉いというような雰囲気がある会社もあるでしょう。

―― いわば、自分の半径5メートルくらいしか見えていなくて、その中であくせくしているような……。

柳川 本来なら、自分の半径5メートルくらいの競争が、会社の利益につながっていくようにするのが経営の手腕なのですが。でも、これもなかなか難しい。

 経済学で「レント・シーキング競争」という言葉があります。レントというのは、独占利益のようなもののことです。例えば、輸入割当があり、輸入権が独占的に得られれば、その会社は確実にもうかるわけです。そうすると、独占的輸入権を獲得しようとして二つの会社が争う。

 争うことでそれぞれの能力開発につながればいいのですが、そうではなくて、相手を蹴落とすことにコストやエネルギーを使ったりするわけです。社会的にはなんの生産性もない、無駄な競争です。そんな無駄なことに時間とエネルギーを浪費するくらいなら、独占的輸入権はくじ引きで決めたほうがいいくらいではないか、という議論です。

 そんなことに無駄な労力をかけている会社は、特に大企業に多いかもしれません。社内資料なのに、時間をかけて奇麗にまとめることを求められたり、紙の資料がやたら分厚かったり、皆さんも心当たりがあるのではないでしょうか。

―― そういった社内競争に陥らず、広い視点で考えて切磋琢磨して、利益を出していく会社にするには、働き方を柔軟にして、さまざまなタイプの人間が企業に入ってくる必要がありそうですね。

柳川 それこそがダイバーシティの真の目的です。多様な働き方により、多様な人が集まってくることで、好循環が生まれるのです。オープンイノベーションという言葉がはやっていますが、同じような価値観を持った同じような人が集まっていても、今までと違う発想は生まれにくい。自分とは違う価値観を持っている人と話すことで気付きがあり、アイデアが生まれますよね。ダイバーシティとは、社会貢献的な意味合いだけでなく、社内でイノベーションを生み出すために必要不可欠なもの。それによって新しい付加価値が生まれ、企業価値の向上につながっていくのです。

―― 本当は、経済環境が厳しい会社こそが、そこから抜け出すために、長期的に考えてダイバーシティや働き方改革を取り入れるべきなのかもしれませんね。

柳川 そう思います。ダイバーシティも働き方改革も、どんな会社も取り組むべきことなのです。苦しいときほど長期的な視点にたち、会社を大きく伸ばしていかなければならないと思います。

―― 次回はさらに具体的に、みんなが幸せになる「日本流の働き方改革」について、柳川先生に伺っていきます!

構成/西山美紀 撮影/関口達朗

柳川範之さん
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授
1963年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。専門は法と経済学。2011年より現職。著書に『独学という道もある』(ちくまプリマー新書)、『法と企業行動の経済分析』(日本経済新聞出版社)、『40歳からの会社に頼らない働き方』(ちくま新書)など多数。

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