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シュタイナー教育の普及に奔走 2歳児預け留学も

子育て・教育

シュタイナー教育の普及に奔走 2歳児預け留学も

子安美知子さん(上)シュタイナー教育を最初に日本に紹介/「ワーキングマザーの先駆者」が晩年まで燃やし続けた情熱

2歳の娘を保育ママに預け、単身ドイツ留学も

 フミさんが2歳のとき、美知子さんは奨学金を得て単身ドイツへ留学。フミさんを日本に残し、保育ママに泊まりで預けていたと聞いて、その思い切りの良さにびっくりしました。電子メールはないし、電話代も高い時代です。日本からの手紙を心待ちにし、成長の様子を知ったということでした。フミさんが6歳になって、宣邦さんも留学が決まり、3人でミュンヘンへ。そこでシュタイナー学校に出合いました。

 ここまで聞いて話すのが大変そうになってきたので、「続きは、また伺いたいです」とお願いしました。「たびたび会いましょうね」と言う美知子さんを見送り、電車で別れました。お会いするのはこれが最後でした。

 教育だけでなく、シュタイナーの障害者についての考え方も美知子さんから学びました。筆者が「ドイツで、障害者が働くシュタイナーの共同体を訪問したい」と相談すると、美知子さんには「子連れで数か月、共同体に住み込んでは。きっと見えるものがある」と提案されました。現場に入るなら、調査や取材ではなく、共に働くのがいいという勧めでした。

 美知子さんは、理解が難しいシュタイナーの世界観を「上手に紹介しないと怪しいものだと思われる」と心配していました。昨年6月に最後の電話があり、「私も長年かけてやっとなのだけど」「なぜ今世で障害を持って生まれたのか、シュタイナーの考えがあって…」との言葉が印象に残っています。

 筆者は、美知子さんの著書『シュタイナー 再発見の旅』(小学館)を読み返してこんな言葉を見つけ、少しだけ理解できたように思います。

 「身体が完全さにめぐまれず、心に障害があっても、精神は健康である

 「この人生で高い発展を遂げるべく降りてきた自我のために、障害のある身体と心にむけて、特別手厚い配慮をしよう

しなやかに生きたワーキングマザー

 昨年7月、近しい人で営まれた葬儀に筆者も参列しました。最期の様子を聞くと、本の校正に没頭し、体調が悪化して入院。「しばらくしたら退院できる」と希望がありました。苦しい息の中、メモ書きで家族に「自分の人生に満足している」「多くの人の愛を受けてきた」と伝えたそうです。

 美知子さんが東京シュタイナーシューレを離れた後、情熱を傾けた千葉の「あしたの国」も、美知子さんの旅立ちに合わせるかのように幕を下ろしました。関わりのあった人たちは「子安先生がまいた種は、あちこちで育っている」としのびました。

 晩年も美知子さんからのメールはウイットに富み、情報は学者らしく正確で、前向きな空気が含まれていました。力強い生き方や功績が注目されましたが、子どもを愛するワーキングマザーとして、しなやかさと客観性も持っていたように思います。

 最後にお会いした日、筆者がキャリアを築くうえで受けた差別やパワハラについての悩みを投げかけると、「のみ込んであげることも大事なの」と美知子さん。ただ我慢するという意味ではなく、真正面からぶつからず、かわす術も必要というメッセージでした。

 後編では、『ミュンヘンの小学生』のその後について、娘のフミさんのお話を紹介します。

娘でベーシストのフミさん(写真手前)とその家族。フミさん提供写真

(取材・文 なかのかおり)

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